「うちは営業をしたことがない。仕事は昔から親会社から降りてくるので」——北九州でものづくりを続けてきた製造業の社長から、いまでもよく聞く言葉です。結論から言うと、下請け依存から抜け出す最短ルートは、営業マンを雇うことでも展示会に出ることでもなく、「他業種の経営者から紹介が入る状態」をつくることです。設備も人も増やさずに始められて、成約率がもっとも高いのがこのルートだからです。

この記事では、2015年からBNI北九州東リージョンのフランチャイズを運営し、約10年で延べ2,000人以上の起業家と接してきた経験をもとに、北九州・小倉の製造業が新規取引先を紹介から増やす5つのステップを、具体例つきで解説します。従業員10名前後の町工場を想定していますが、建設・設備・運送など「元請けが決まっている業種」全般に応用できます。

北九州の製造業が抱える「1社依存」というリスク

北九州市は、官営八幡製鐵所の操業開始以来100年以上、日本のものづくりを支えてきた街です。鉄鋼・自動車・半導体関連の裾野産業として、金属加工、機械部品、金型、表面処理といった中小の工場が今も数多く稼働しています。中小企業庁が公表している中小企業白書のとおり、日本の企業の99.7%は中小企業であり、従業者の約7割がそこで働いています。北九州はまさにその典型的な地域です。

一方で、この構造には固有の弱点があります。私がこれまで相談を受けてきた北九州の製造業の中には、売上の6〜8割を親会社1社に依存している会社が珍しくありません。この状態は、平時はとても効率的です。営業コストがゼロで、稼働率も読める。しかし、次の3つのどれか一つが起きた瞬間に、経営が一気に傾きます。

①親会社の生産計画が変わる——モデルチェンジや海外移管で、発注が半減する。②単価の見直しを迫られる——断れば仕事が減るとわかっているので、実質的に受けるしかない。③親会社側の担当者が代わる——長年の関係が、担当者の異動一つでリセットされる。

どれも会社の努力とは無関係に起きます。だからこそ、「今すぐ困っていない今のうちに」新しい取引先の入口を2つ、3つと増やしておくことが、製造業の経営者にとって最大のリスク対策になります。北九州・福岡の地域経済の流れについては北九州・福岡で紹介ビジネスが伸びる業種5選でも整理しています。

展示会と飛び込みが、町工場でうまくいかない理由

「新規開拓が必要なのはわかっている」という社長は、たいてい一度は展示会に出ています。しかし、多くの場合その後が続きません。理由は3つあります。

理由1:出展コストに対して、商談が浅い。展示会は小間代・装飾・人件費で数十万円から百万円単位がかかります。名刺は集まりますが、その多くは情報収集目的の担当者です。決裁権のある人にその場で会える確率は高くありません。年1回のイベントである以上、次に会えるのは1年後です。

理由2:技術は、カタログでは伝わらない。「0.01mmの精度が出せます」「小ロット・短納期に対応できます」——町工場の強みは、ほぼすべてがこの手の言葉になります。しかし発注側からすると、どの会社のパンフレットにも同じことが書いてある。技術力は、第三者が「あそこは本当にやってくれる」と語ってはじめて伝わります。この構造がリファーラルマーケティングの出発点です。詳しくはリファーラルマーケティングの基本で解説しています。

理由3:飛び込み・テレアポは、現場が回らない。従業員10名の工場で、社長も現場に入っています。日中に営業へ出る時間はありません。仮に営業専任を1名雇えば、年間で数百万円のコストがかかり、成果が出るまでに1〜2年。体力のある会社しか選べない手段です。

つまり製造業の新規開拓に必要なのは、「時間がかからず」「技術力を第三者が語ってくれて」「決裁者に直接届く」方法です。それが紹介です。

新規取引先を紹介から増やす5つのステップ

実際に北九州の製造業の社長にお伝えしている手順を、5つに整理します。

ステップ1:自社の「頼まれごとの棚卸し」をする。直近3年で受けた仕事を並べ、「他社が断った案件」に印をつけてください。他社が断ってあなたの会社が受けた仕事こそが、市場での本当の強みです。「試作1個から受ける」「図面なしのポンチ絵でも形にできる」「土曜に持ち込んでも月曜に出せる」——こうした具体的な事実が、紹介してもらうための材料になります。

ステップ2:「誰を紹介してほしいか」を業種名で言えるようにする。製造業の社長の自己紹介は、ほとんどが加工の種類の説明で終わります。しかし聞いている側が知りたいのは「どんな会社を紹介すればいいか」です。「製造業ならどこでも」ではなく、「食品工場の設備保全をしている会社」「産業機械の設計事務所」のように、紹介先を具体的な業種と規模で指定する。ここを変えるだけで、届く紹介の数が明確に変わります。

ステップ3:他業種の経営者と、毎週顔を合わせる場に入る。ここが本丸です。製造業の受注は、意外なところから生まれます。私が見てきた実例で言えば、税理士から「顧問先が部品の調達先を探している」、内装工事会社から「店舗什器の金物を頼める工場はないか」、保険代理店から「工場を継いだ二代目が新しい外注先を探している」——こうした情報は、同業の集まりではなく、他業種の経営者が集まる場に流れています。北九州・福岡には商工会議所、業界団体、異業種交流会、BNIのようなリファーラル組織があります。選ぶ基準は「頻度」です。月1回の交流会より、毎週会う場のほうが信頼の蓄積は圧倒的に速く進みます。

ステップ4:工場に呼ぶ。製造業には、他業種にない決定的な武器があります。見せられる現場があるということです。図面を読める人でなくても、機械が動き、削り出された部品が並ぶ現場を一度見れば、「あそこはちゃんとした工場だ」と確信を持って人に語れるようになります。紹介してくれる相手を1時間工場に招くこと。これが、どんなパンフレットよりも紹介の質を上げます。

ステップ5:もらう前に、出す。新しい場に入った製造業の社長がまずやるべきは、自社の売り込みではなく、他のメンバーへの紹介です。これが「Givers Gain(与える者は与えられる)」——リファーラルマーケティングの根幹にある考え方です。工場には、鉄工所、塗装屋、運送、産廃、電気工事といった他業種から見れば宝の山のような取引先リストがあります。それを出せる人が、結果的に一番多く紹介を受け取ります。具体的な手順は紹介を出せる人になる5つの実践ステップにまとめています。

製造業の経営者がやりがちな3つの失敗

逆に、うまくいかないパターンもはっきりしています。現場でよく見る3つです。

失敗①:技術の話を、専門用語のまま話す。マシニング、ワイヤーカット、アルマイト——業界では当たり前の言葉が、他業種の経営者には一つも通じません。紹介は「聞いた人が、別の誰かに説明できたとき」にはじめて発生します。中学生に説明するつもりで話せているかを基準にしてください。

失敗②:社長だけが外に出て、社内に共有しない。せっかく引き合いが入っても、見積の回答に1週間かかる、電話に出た事務員が内容を把握していない。これでは1件目で終わります。紹介が入ってから48時間以内に一次回答をするという社内ルールを決めるだけで、成約率は大きく変わります。営業の属人化を解く手順は中小企業の営業が属人化する4つの原因で扱っています。

失敗③:3ヶ月で成果を判断する。紹介は、信頼が積み上がってから動き出します。私の実感では、他業種の経営者との関係が実際の受注につながり始めるまでに、平均して6ヶ月から1年。逆に言えば、1年続けた会社はその後ずっと入口が開いたままになります。設備投資と同じで、回収期間を前提に取り組む必要があります。

まとめ:営業マンを雇う前に、紹介の入口をつくる

整理します。北九州の製造業が下請け依存から抜け出すには、①他社が断った仕事の棚卸し、②紹介してほしい相手を業種名で言う、③他業種の経営者と毎週会う場に入る、④工場に招く、⑤先に紹介を出す——この5つを順番に進めることです。いずれも設備投資ゼロ、追加の人員ゼロで、社長が今週から始められます

10年間この地域の経営者を見てきて確信しているのは、取引先の数は、社長が会っている他業種の経営者の数に比例するということです。技術力が同じ2社があったとき、仕事が集まるのは、名前を知られているほうです。そして地方都市ほど、その差は口コミと紹介でつきます。地元での信頼づくりについては北九州で「地元に選ばれる会社」になる5つの条件もあわせてご覧ください。

お盆で工場を止めているこの時期は、年の後半の打ち手を決めるのにちょうどいいタイミングです。下期に新しい取引先を1社増やすと決めたなら、9月の第1週に、他業種の経営者が集まる場に一度足を運んでみてください。名刺交換の会に1回出るのではなく、同じ顔ぶれと毎週会える場を選ぶこと。それだけで1年後の受注構成は変わります。

「親会社への依存を減らしたい」「営業マンを雇わずに新規取引先を増やしたい」という北九州・小倉の製造業の経営者の方は、ぜひ一度お問い合わせください。BNI北九州東リージョンの各チャプターでは、朝会のビジター見学を歓迎しています。製造業・建設業の社長も多く参加していますので、他業種からどんな引き合いが実際に飛び交っているのかを、1時間で見ていただけます